ディスクシュレッダー再入門(3)

誤解3: ディスクをフォーマットすると消える。

OSのファイル管理の原理は分かっていて、誤解2に陥ることはない人でも、次に陥りやすいのがこの誤解です。

「フォーマット」とは、HDDを初期化して、 OSからファイルの読み書きをできる状態にすることです。新品のHDDには、まったく意味のあるデータが書き込まれておらず、領域全体が特定の値で埋められているだけですが、 OSがこの上にファイルを作るには、図1の(A)(B)(C)(D)などに相当する領域を決め、 OSのサポートするファイル形式に合った適当な値を埋めておく必要があります。この処理がフォーマットであり、フォーマット後はファイルが1つも無い状態 (ファイル形式によっては、ルートファイルなど特殊なファイルのみが存在する状態) になります。たとえ話としては、まだ手の付いていない荒野である新品のHDDに、道路や水道を引いて土地の区画整理を行い、ファイルという家を建てられるように準備する作業がフォーマットであると言えるでしょう。

しかし、一口に「フォーマット」と言っても、作業の具体的な内容は、 OSの種類やバージョン、フォーマットのコマンド種類、ファイル形式、対象となるメディア(HDDかフロッピーディスクか)などによって多くのバリエーションがあります。たとえば、Windows XPの場合、「通常フォーマット」と「クイックフォーマット」の2種類のフォーマットが可能です。ところが、このうちの「通常フォーマット」を行っても、図1の(A)(B)に相当する領域を空にし、残りすべての空き領域を(D)につなぐだけで、 (C)の領域に何かの値を書き込むということはありません。したがって、過去に作成されたファイルのデータ本体は、ほぼそのまま残ります。正確に言えば、過去に(C)として利用された領域が(A)(B)に転用される可能性は考えられ、その場合はデータ本体の一部が上書きされて消されることになりますが、その可能性はごくわずかです。結局、Windows XPで「通常フォーマット」を行っても、過去に作成されたファイルのデータ本体の大部分は消えないのです。この状況は、「クイックフォーマット」でももちろん同じです。

たとえ話の続きで言えば、土地の区画整理をしたからといって、各区画の整地や草むしりまでやっているとは限らない、ということです。整地や草むしりの作業をするのは、土地の区画整理を行う開発業者なのか、そこに家を建てる大工なのか。Windows XPにおけるHDDのフォーマットに関して言えば、各区画の整地や草むしりをするのはフォーマットを行う開発業者ではなく、ファイルという家を建てる大工の方なのです。さらに言えば、前の家(つまり古いファイルのデータ本体)が残ったままの場合でも、フォーマットを行う開発業者がそれを取り壊すことはなく、古い家を壊す作業は新しい家を建てる大工に任されているということです。フォーマットしたHDDというと、きれいに整地された分譲地を想像しがちですが、実際には、廃虚となった古い家が多数残っているゴーストタウンのようなものを想像する方が、実態に合っています。

ところで、この誤解は、ある程度パソコン経験のある人の方が陥りやすいという点でちょっと厄介かもしれません。たしかに、初期のパソコンでは、フォーマットによりデータの本体まで消えてしまい、決して復活できないというのが常識でした。その頃の感覚や知識に囚われていると、フォーマットすれば消えるという誤解が出てくるのは当然のことです。しかし、Windows XPでの実際の動作は上記の通りで、過去の知識はいつのまにか通用しなくなっています。

注意 : Windows Vista の場合、「クイックフォーマット」でない方の通常の「フォーマット」では、実際のデータ本体も消えるようになった模様です(手元のPCで実験して確認)。ただし、かなりの処理時間がかかります。 Windows Vista の「クイックフォーマット」では、Windows XPと同様に、データ本体の大部分は消えません。

ここまでのまとめとして、新品のパソコンに架空の名簿データを大量に書きこみ、「ごみ箱に入れる」、「ごみ箱を空にする」、ハードディスクの「フォーマット」を順に行った後、市販のデータ復元ソフトでどの程度のデータを復元できるかを実験してみました。具体的な手順や詳細については、「個人情報復元実験レポート」をご覧ください。

≫誤解4: OSを再インストールすると消える。

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