導入事例 : 自立支援センターむく

リユース事業のデータ消去ツールとして採用。

就労支援を受ける障がい者自らが消去作業を担当。

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団体情報
会社名:特定非営利活動法人 自立支援センターむく
設立:2000年(平成12年)12月
所在地:東京都江戸川区小松川1-5-2 トニワンビル
職員数:約100名(PC工房:約15名) 2014年1月現在
利用者数:約800名(PC工房:約50名) 2014年1月現在
事業内容:グループホームや日中活動センターの運営、カウンセリング、就労支援、ヘルパー派遣などさまざまな形で障がい者の地域生活をサポート。就労支援に特化した施設「PC工房」では、一般就労につながる技術の習得を目的として、障がい者自身がコンピューターの再生作業やインターネット販売などを担当。
自立支援センターむくの「むく」とは、純粋無垢の「無垢」を誰もが読めるようにと、ひらがなで表しています。そして、そこには「ゼロ」からの出発とか、「けがれの無い」というような意味合いを持たせています。今ではNPO法人として、皆様のご理解をいただきながら頑張っていますが、前身は在宅障害者のパソコン支援を行う「ボランティア団体」として発足し、現在のNPO法人の「むく」の形へと進化していきました。制度の無い時代から、支援費制度、そして自立支援法へと流れは変わってきていますが、福祉を取り巻く環境は、いつの時代も困難が付きまといます。私たちは、その時代時代の先を読み、少しでもいい障害者支援が行えるようにと努力を続けていく使命を持ちたいと考えています。
※2019年4月から「PC工房」は、一般社団法人リベルタワークスが運営する事業所として活動しています。

muku01 「大規模でなくてもいいので、使い勝手がいい製品を選びたかったのです。」

特定非営利活動法人 自立支援センターむく
写真右:理事長 木村利信様
写真左:PC工房 施設長 鈴木誠様

もくじ

1. 「PC工房」の成り立ち
2. 「PC工房」の活動内容
3. 利用者にとって「PC工房」とは
4. 「PC工房」が取り組むリサイクル・リユース
5. データ消去の作業について
6. ディスクシュレッダーの選考ポイント
7. なぜデータ消去や消去証明書の発行を無料で行っているのか
8. ディスクシュレッダーの不満点
9. 他社のデータ消去ソフトとの比較
10. リサイクル・リユース事業で注力していること
11. リユース・リサイクル事業の見通しと今後の課題
12. 取材インタビュー余禄

自立支援センターむく様では、「PC工房」でパソコンのリサイクルやリユースを行っていますが、「PC工房」の成り立ちについてお聞かせください。

〈木村様〉我々の運営する障がい者施設の1つに生活介護やデイサービスを行っている「小松川支援センター」という施設があります。そこでは、活動の1つとして就労支援を行っていたのですが、行政からの働きかけもあって、就労支援に特化した施設をつくることになりました。そうして、小松川支援センターから独立させる形で誕生したのが現在の「PC工房」です。 「PC工房」は、東京都の認定を受けた就労移行支援(※1)と就労継続支援B型(※2)の施設です。ショッピングセンター内に作業所があり、とてもユニークな福祉施設といえます。

(※1)就労移行支援
就労を希望する65歳未満の障害のある方に対して生産活動や職場体験などの機会を提供し、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練や、就労に関する相談や支援を行うサービス。

(※2)就労継続支援B 型(非雇用型)
就労経験のある障害のある方に対し、就労機会や生産活動などの機会の提供、知識および能力の向上のために必要な訓練などを行うサービス。

〈独立行政法人福祉医療機構「WAM NET」より転載〉

「PC工房」ではどのような活動をされているのでしょうか。

〈木村様〉就労支援として、利用者である障がい者へのパソコン訓練を行っています。
今の時代、どのような職業に就くにしてもパソコンのスキルが必要とされていますが、エクセルやワードが使えるようになっても、それだけで就職が有利になるわけではないというのが実状です。
そこで注目したのがパソコンのリサイクル・リユースです。PC工房では、再利用できないパソコンを分解して金属やプラスチックを取り出し、リサイクルしています。リユースでは、パソコンの整備、ソフトウェアのインストール、クリーニングなど行い、中古品として再生しています。このような作業を通して、メンテナンスやサポートに関する技術を習得してもらいます。
また、再生した中古パソコンをインターネットで直接販売していますので、Webサイトの運用や管理を学んでもらうこともできます。

利用者にとって「PC工房」とはどういう所でしょうか。

〈鈴木様〉十数人いる作業グループの中で職員はわずか1~3人程度しかいません。PC工房は、利用者が中心となって作業を行っているとこ ろが大きな特長です。
利用者である障がい者は、身体的な障がいを持つ方だけではありません。そういう方の中には、会社で働いていたという方もいます。そういう方々が、日々の作業を通して社会復帰していくための予備校のような位置づけでもあります。
毎日のリズムをPC工房で作り、将来、会社で働くことを想定して作業してもらいます。まずは、PC工房で慣らしてから次のステップに進んでもらいます。実際の仕事に近い環境で作業してもらうことで、本当に会社で働けるのかを判断する材料にもなります。
いろんな考えの人がいることも事実です。一般的な就労が難しく、PC工房が就職先だと思っている人もいれば、志をもって一年後には就職するんだという意識で作業に取り組んでいる人もいます。そうしたいろんな人がいる中で、それぞれの人に合わせてどのように進んでいけば良いのかを職員を含めて考えて活動しています。

「PC工房」が取り組んでいるリサイクル・リユースの流れをご説明ください。

〈木村様〉我々が再生するパソコンのほとんどは企業や団体から寄贈していただたものです。企業や団体で使われなくなったパソコンを無償で提供していただいています。
まず、パソコンを再生できるものと再生できないものに区別します。
再生が可能だと判断したパソコンに関しては、リユースのための作業を行います。はじめに、ソフトウェアでデータ消去を行います。その後、クリーニングを行い、OSなどのソフトウェアをインストールします。最後に動作チェックを行い、店舗やインターネットで販売します。
故障しているものや搭載されているWindowsのバージョンが古いものは再生不可と判断され、パソコンリサイクルにまわします。ハードディスクは、破壊してデータ消去を行います。破壊後は、レアメタルなどの金属やブラスチックに分解して、それぞれの回収業者へ出荷します。

〈鈴木様〉パソコンとして利用できなくても、使える部品やパーツだけを抜き出して、中古品として販売することもあります。また、使える部品だけを集めて一台のパソコンに組み立てたりもします。
今、再利用と再資源化のサイクルがとてもうまく回り始めています。ネジ1本にいたるまで無駄にしていない、ごみゼロを実現しています。

パソコンリサイクル/リユース/の流れ

データ消去の作業について詳しくおしえてください。

〈木村様〉廃棄するパソコンのハードディスクは、まず磁気破壊装置にかけてデータ消去を行います。その後、さらに、油圧式の物理破壊装置 でハードディスクに穴を数箇所あけ、再生不可能な状態にします。これでデータ消去は完璧といえると思います。
再生するパソコンについては、NSA推奨方式のソフトウェアでデータを消去します。我々に寄贈いただく団体の中には公的な機関もありますので、ソフトウェアに消去方式についても公的に認められた方法がよいだろうと判断 して、NSA推奨方式で消すようにしています。この工程で使用する製品がディスクシュレッダー4です。
起動しないなど、ソフトウェアの消去がうまく行えない機種の場合、デュプリケータの消去機能を使って、O書込みやDoD方式を使うこともあります。
オンサイトでのデータ消去は行っていません。一般的な消去サービスでは、社外に消去前のパソコンを持ち出すことができない会社などからそういう要望は多いようですが、幸い、むくは東京都の認可施設ということで、安心して任せてもらっています。社内規定が厳しい企業では、担当者がPC工房での消去作業に立ち会うこともあります。以前は、心配して見学に来られる方が多かったのですが、最近は取引先からの紹介ということで、電話1本で依頼されるケースも多くなり、信用が増していると実感できます。

ディスクシュレッダー4

油圧式破壊装置、デュプリケータ

ソフトウェアによるデータ消去の作業でディスクシュレッダー4・スタンダードをご採用いただいているわけですが、選考ポイントをおしえてください。

〈木村様〉リユース作業において、ディスクシュレッダー4・スタンダードの存在は欠かせなくなっています。ポイントは、大きく3つに分けることができると思います。

(1)消去ログ機能の搭載
寄贈いただいたすべてのパソコンに対して、データ消去証明書を発行しています。その際に使用しているのが、ディスクシュレッダー4・スタンダードに搭載されている消去ログ機能です。1台ごとに生成されるログを消去証明書として使っています。他社の消去ソフトでもログ機能はありますが、ディスクシュレッダーのように1つのテキストファイルでログが生成されるようなものはなく、我々が提出する消去証明書としても十分通用すると考えました。

(2)NSA推奨方式を採用
我々が東京都から認可を受けた団体であり、先ほどお話したように寄贈いただく団体も公的な機関があるため、消去方式もなるべく公的に認められた方式を採用するほうが良いだろうと考えました。国内ではそのような消去方式がなかったため、米国で広く認められているNSA(米国家安全保障局)が推奨する消去方式で消すことができる製品を探しました。そうして、選択肢にあがったのが、ディスクシュレッダー4・スタンダードでした。

(3)運用コスト
コストについてもシビアにみています。実は、企業や団体から無償でパソコンを寄付いただいている代わりに、我々はそのパソコンのデータ消去を無料で行っています。データ証明書の発行も無料です。そのため、できるだけ消去コストを低く抑えたいと考えています。何回消しても何台消しても追加費用のかからないディスクシュレッダーは我々にとって最適な製品でした。

データ消去や消去証明書の発行を無料で行っているのはなぜでしょうか。

〈木村様〉パソコンの寄付などを通じて我々とお付き合いしていただく企業や団体とは常にイーブンな関係、フィフティ・フィフティの関係でありたいと思っています。
我々は無償でパソコンをいただいていますが、それだけではダメだと考えているのです。支援していただく企業や団体にも何らかのメリットがないと良好な関係とはいえず、長続きしません。
もちろん企業や団体にとっては寄付という行為がCSRですので、PRにもつながります。しかしそれだけはありません。我々は引き取ったパソコンを無料でデータ消去を行い、無料で消去証明書を発行しています。こうした作業を有償で提供するサービスもありますから、その点で、コストダウンにもつながっていると思います。これは企業にとっても大きなメリットではないでしょうか。
そして、もう一つが「差別化」です。パソコンの回収やデータ消去を専門に行う一般的なサービスのほとんどが、顧客から費用をもらってデータ消去を行っている中で、データ消去を無償で行うことが競争力の強化となり、差別化につながっています。
福祉に国から多くの予算がつけられ、国のお金で何でもできた昔とは違 い、予算は年々減る一方です。福祉の現場環境が厳しさを増す中で、企業のように競争力を高める必要があるのではないか、差別化をしないと生き残れないのではないか、我々はそのように考えています。福祉施設も企業と同じように生存競争にさらされているのです。
我々は、パソコンのリサイクル・リユースの事業を軸に、めだかの飼育やLEDによるカイワレの水耕栽培、書店運営などを行っています。企業風にいえば、多角化を進めています。
利用者に自立してもらうには、まずは我事業者が自立しないとダメだと考えています。税金に頼らず、自分達でしっかり収入を得る仕組みを作っていきたいのです。

関係図

ディスクシュレッダーを使っていてご不満な点はありますか。

〈鈴木様〉不満ではないのですが、要望があります。
消去ログのファイル名についてです。今の仕様ではディスクシュレッダー側でファイル名を付けていますが、これをユーザー側で任意に変更でき る仕組みがあると助かります。
PC工房では、ログのファイル名にあらかじめパソコンに割り振っておいた管理番号を用います。現状では、消去ログをサーバーに保存する前に、ファイル名を別のパソコンでリネームしています。この作業をディスクシュレッダー上でできるようになっていると、一連の流れの中で変更することになるので、間違いも少なくなりますし、工程を1つ減らすことができます。
日々の作業ではほぼスムーズに使えています。あえていうのであれば、さらなる安定性に期待したいです。そもそも不安定なパソコンが多いのですが、一度目の起動ではうまく動作せず、二度目の起動でちゃんと動 いたケースがあります。扱う機種は多種多様ですので、できるだけ多くの、そしてどのようなパソコンでも動くような安定性がほしいですね。
操作性の面で、ディスクシュレッダーのフルオート版もあるようですが、操作も訓練と考えた場合には、キーを操作する工程があった方がよいですね。あまり多いと間違いの原因になりますが、今くらいの回数であれば問題ありません。

他社のデータ消去ソフトとは比較されましたか。

〈木村様〉市販のパッケージ製品を中心に、ありとあらゆる会社の製品を調べましたが、そのほとんどが1台ごとに費用が発生する仕組みでした。これでは、データ消去や消去証明書の発行を無料で行うことが難しくなります。
使い勝手の部分でも違いを感じました。中には消去の度にIDの入力が必要となる製品もあり、効率よく作業ができないと感じられる製品もありました。消去作業はすべて利用者の方に行ってもらうので、複雑な操作は困 りますが、訓練のためにもある程度の操作があった方が良いと考えています。ディスクシュレッダーはそうした希望にぴったりの製品だったのです。
他にもいろいろと売り込みがありました。しかしながら、どれも千台単位で消去できるようなネットワーク対応の大規模向け製品ばかりで、我々のような小規模な作業所には向いていないと思われました。大規模でなくてもいいので、使い勝手がいい製品を選びたかったのです。
独自に消去ソフトウェアを開発しようかという話もありました。実は、職員の半分がエンジニアでプログラミングができるんです。ハードディスクへの書込みだけであれば比較的簡単だと思ったのですが、消去ログの書き出しなどの仕様をきちんとまとめる必要があり、想像以上に大変だとわかったのです。ソフトウェアの販売が目的ならまだしも、自社で使うものにそこまで時間をかけて開発する必要があるのか、いろいろと議論した結果、使い勝手のいいソフトにするには時間がかかるという理由で、開発を断念しました。
そうしたタイミングでディスクシュレッダーをインターネットで見つけたのです。ディスクシュレッダーに出会わなければ自社開発を続けていたかもしれません。

リサイクル・リユース事業で注力してきたことは何でしょうか。

〈木村様〉1つはサービスレベルの向上です。
こういう現場では、とかく紛失や盗難が問題とされますが、PC工房の作業所では、ICカードによる入室管理を行っています。24時間稼動の監視カメラでセキュリティも万全です。
また、東京都から認可を受けた施設なので、日ごろから行政機関の監査や査察を受けています。そのため、書類や物も行政と同じレベルで管理されており、様々なノウハウがあります。たとえば、検品のノウハウを活 かして、パソコンの引き取り現場で依頼先に数量などの間違いを指摘したこともあります。民間にはないノウハウに驚かれることも多いのです。
引き取りの話でいうと、寄贈いただくパソコンの運搬も我々自身で行っています。「トレースタグ」というGPSのシステムを使って、何時何分どこから引き取って、何時何分に物流倉庫に到着したのかをすべて記録して、データ消去証明書と合わせて依頼先に提出しています。民間のサービスでもここまで徹底しているところは、ほとんどないと思われます。
データセキュリティコンソーシアムという団体にも加盟しています。データの収集や利活用、廃棄、再生に関わる企業や団体が集まって、データのセキュリティをどのように保つのか日々考えています。展示会や勉強会などにも積極的に参加し、啓蒙活動を行っています。
いろんな企業と取引やお付き合いを広げていく中で、どのような要望にも応えられるようにしていった結果が、今のシステムに反映されています。すべてにおいてパーフェクトでありたいと思っています。

2つ目はコンプライアンスの遵守です。
東京都の認可団体、施設ということもあり、違法なことはもちろんダメですが一般企業では認められてしまうようなグレーゾーンも許されません。コンプライアンスは常にしっかり守っていきたいと考えています。とかくグレーなイメージをいだかれる中古業界ではありますが、そこはきちんと対応していくことで、信頼を勝ち得たいと思っています。
マイクロソフトから正規の再生用ライセンスの提供を受けているのもそのためです。正規のライセンスだから、安心して購入していただけますし、企業や団体にも安心してパソコンを寄贈していただけるのです。

リユース・リサイクル事業の見通しと今後の課題をおしえてください。

〈木村様〉PC工房で再生されたパソコンは、ネットオークションに出品 したり、同じ建物で運営する「ぴーしー工房Shop」で販売していますが、 販路を拡大していこうと考えています。
最近では、卸販売も行っています。東京の秋葉原や大阪の日本橋で中古パソコンを販売するショップインバースにも我々が再生したパソコンが並んでいます。店頭での売れ行きも好調らしく、つい先日も数十台のパソコ ンを卸しましたが、あっという間に売れてしまったそうです。お店の方からはもっと多く卸してほしいという要望をいただいているのですが、我々の生産(再生作業)が追いついていない、というのが現状です。
販売のほかにも、他の福祉施設やNPO法人への寄付を前提にして、デー タ消去などの再生作業を請け負うこともあります。マイクロソフトの再生用ライセンスについては、我々は販売を目的とした「商用ライセンス」のほかに、寄付を目的として発行される「シチズンシップライセンス」の取扱いもできるので、今後はこういった作業も増えることを予想しています。
さらに、平成25年4月に施行された障害者優先調達推進法という法律が我々の事業にとって追い風になっています。簡単に説明すると、国などの行政機関は、物品等の調達に際して、障がい者就労施設で作られた製品を優先的に購入しなければならないという法律です。強制力がある法律ではないのですが、確実に効果が現れており、我々の施設でも、都立の病院からWindows XP搭載パソコンの入れ替えで仕事を請け負うことができました。自治体では、Windows XPからの移行が民間企業と比べて遅れているといわれていますので、今後、重要が伸びる余地は大きいと思います。 このような状況に対応するために、作業所の拡大を計画しています。我々にはPC工房以外にも施設がありますので、分担できる作業を移すなどして、効率を上げていきたいと考えています。
あとお伝えできることとして、新品のオリジナルパソコンの販売も考えています。ショップインバースに相談したところ、同じヤマダ電機グループでパソコン製造を手がけているフロンティアを紹介いただき、我々が指定 した仕様のパソコンを提供してしてもらえることになっています。OSなどのインストールはPC工房が担当するので、これまでのパソコン再生のノウハウも活かせます。準備が整ったら、販売を開始する予定です。

【導入製品】 ディスクシュレッダー4・スタンダード CD-ROM版



取材インタビュー余禄

日本初!福祉施設でマイクロソフト再生用ライセンスプログラムを取得!!

〈木村様〉マイクロソフトの再生用ライセンスプログラムの取得にはほんとうに苦労しました。
はじめはどこに掛け合ったらいいのかもわかなかったので、マイクロソフトのフリーダイヤルのお客様相談窓口に電話をしました(笑) 福祉施設からの問い合わせに、対応してくれた方も初めは困った様子でした。いろいろと調べていただき、3日後にようやく法人ライセンスの部署を紹介してもらえました。電話での交渉は、「年間何万台生産するんですか?」から始まりました。当然ながら、我々が想定しているのはそのような大きな話ではありません(笑)
そうした電話でのやり取りがしばらく続き、品川にあるマイクロソフト本社で担当者に会うことができたのは、はじめて電話をしてから半年後のことでした。前例がなかったためマイクロソフトもはじめは半信半疑だったと思いますが、交渉の場でマイクロソフトのCSR担当者に活動内容を全て説明して、ようやく我々が福祉施設だということを理解してもらえました。そこから一歩ずづ進みだしました。
商用ライセンスを取り扱う代理店は日本に4社あり、そのうちの1社と契約する必要がありました。マイクロソフトからの説明では「4社とも断られたらライセンスは提供できません。」というものでした。さっそく4社にコンタクトをとったものの、そのうち3社については、交渉まで進むことができませんでした。唯一、取引に応じてくれたのが菱洋エレクトロでした。そして、マイクロソフトとの交渉に協力してくれるよ うになったのです。
菱洋エレクトロとの契約にこぎ付けたものの、問題は山積みでした。最大の難関はライセンスのコミットです。何千という単位で購入しなければならず、到底無理な条件でした。菱洋エレクトロに粘り強く対応してもらった結果、無事、マイクロソフトのライセンスを取り扱えるようになったのです。その結果生まれたのが、「Microsoft Registered Refurbisher」(※3)だと聞いています。「Microsoft Registered Refurbisher」のプログラムを受ける福祉施設は国内では我々だけだと言われています。
「Microsoft Registered Refurbisher」でライセンス提供を維持するには毎年マイクロソフトの試験に受からなければなりません。正規のアクセスキーやプロダクトキーの発行、コアシールの管理などを行うので、コンプライアンスに関してかなりの知識が求められます。小規模でありますが、メーカーと同じレベルのことをやっているのです。ちなみに、試験に5回落ちると資格を失います。しっかり勉強して受けるのですが、かなり難しく、今年は3回目でようやく合格しました(笑)。

古物商売買許可を取得

〈木村様〉マイクロソフトからは、中古パソコンの入手ルートについても指摘を受けました。「企業からそう簡単に集めることはできないのでは?」というのです。この指摘は正しく、パソコンを入手することでも我々は苦労しました。
はじめに、リース会社から中古パソコンを安く入手することを考えましたが、ここでのネックの1つが、リース会社との取引条件にあった古物商の免許番号の取得でした。東京都の公安委員会に相談したところ、「東京都の認可を受けている団体なのだから、免許番号がなくてもが大丈夫。」という回答だったんですが、リース会社側がそれではダメだということになったのです。古物商の免許番号を持たないないところには、販売しないというルールが徹底しており、結局、我々も取得することになりました。
番号も取得し、いざ中古パソコンの購入となったときに、さらに困ったことに気がつきました。それは、古物の売買が入札方式だったことです。我々には、入札に関するノウハウがありませんでした。そこで、すでに取引のあった東芝リースから支援を受けながら、入札に参加したのですが、全くうまくいきませんでした。落札するには大量に入札しなければいけなかったり、そもそも入札となると自然と落札価格は高くなるので、我々では手が出せなくなります。そういった状況で当初の事業計画は頓挫してしまいました。

数々の企業が支援

〈木村様〉厳しい状況が一変したのは、朝日新聞でPC工房の活動が紹介されたことがきっかけでした。 記事には大きな反響があり、企業から声がかかるようになったのです。
JA三井リースの社長が見学に来られ、公共性が高い事業ということでその場で100台ものPCの無償提供を申し出てくれました。富士ゼロックスでは、我々への寄贈のために使用済みパソコンの外部放出を認めていなかった社内規定を役員会で改訂した、というエピソードもあります。また、総合警備保障(ALSOK)がセキュリティカメラの提供を申し出てくれたりと、パソコン関連以外でも幅広く支援していただけるようになりました。
さらに、東京スター銀行とNTTグループと取引をはじめたことにより、取扱いが大きく増えました。東京スター銀行では債権回収部門のパソコンを皮切りに、その後は関連会社など含めて東京スター銀行グループのほぼすべてのパソコンをむくが回収してデータ消去を行うようになりました。NTTとは中古パソコンのリユース事業のほかにも、在宅就労支援システムの開発でも協力関係にあります。将来、iPadなどのタブレットPC を使って在宅で仕事ができる仕組み作りに取り組んでいます。

アンカーネットワークサービスに施設外就労センターを開設

〈木村様〉現在、業務提携しているアンカーネットワークサービスとの取引も朝日新聞の記事がきっかけで始まりました。碇社長自らがPC工房に出向いて作業を見学されたことを覚えています。今、アンカーネットワークサービスには、PC工房の施設外就労(※4)で協力いただいています。アンカーネットワークサービスの東京第2エコラインステーションという物流倉庫の中に一部エリアを借りて、そこで我々の利用者が働いています。アンカーネットワークサービスでは、通常、別のデータ消去ソフトを使っていますが、そこでの作業ではPC工房から持ち込んだディスクシュレッダーを使って消去作業を行っています。作業内容はPC工房と同じですが、企業のスタッフといっしょに作業を行うことで、企業で働くことのイメージをつかんでもらい、将来の就職に慣れてもらおうという試みです。

アンカーネットワークサービス 第二エコラインステーション内施設外就労センター

(※3)Microsoft Registered Refurbisher
小中規模の中古パソコン再生事業者にマイクロソフト製品の再生用ライセンスを提供するプログラム。

(※4)施設外就労
企業内など、指定された障がい福祉施設とは異なる場所で行われる支援サービス。


この記事は2013年11月の取材をもとに書かれたものです。
閲覧される時点では変更されている可能性があることをご了承ください。
文中の社名については敬称を省略いたしました。


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